少子高齢化により、さまざまな問題に直面している日本。
特に、財政難や地域間格差の拡大(医療、社会保障、福祉、教育、就労機会など)で地方自治体の抱える課題が増えています。
人口は首都圏に一極集中し、地方の人口減少が加速する中、地方創生や持続可能な社会の実現を目指すためにはどうすればよいのでしょうか?
その取り組みの一つに、地域の特性を活かした施策を行う「地域マーケティング」があります。
人口わずか6,000人の村が人口の約25倍もの観光客を迎え入れる、後継者不足に悩まされる地域に若年層の担い手を移住させるなど、過疎化に悩む地域が行う地域マーケティングが注目を集めています。
では、どのような施策を行えばよいのか、実際の事例と共に、地域マーケティングを成功に導くポイントについても解説します。
地域マーケティングとは
地域マーケティングとは、自治体や地元の企業が主体となり、その地域ならではの特色を活かして地域経済やコミュニティの活性化を目指す取り組みです。
外部からの資金流入だけではなく、地方創生や雇用創出にも効果があるといわれています。
地域マーケティングはなぜ重要?
近年、多くの自治体が地元の魅力を発信する取り組みを行っています。
しかし、消費者のニーズや価値観の多様化、地域間での競争激化などの理由により、成功できていないという自治体も多いのです。
また、地域を訪れる観光客を増やしたいと思っても、そもそも地域の魅力や特色を発掘できていない、地域ブランドが確立できていないということもあるでしょう。
このような地域の課題を、地域マーケティングでは解決できる可能性があるのです。
方向性が定まっていても、上手く発信できない、マネタイズできていないなど、マーケティングに関するさまざまな課題も生じています
エリアマーケティングとの違い
地域マーケティングとエリアマーケティングは混同されがちですが、主体とターゲットが異なります。
エリアマーケティング
エリアマーケティングは、全国展開する企業が地域ごとに異なるマーケティング施策を行うことです。
地域マーケティングより広範囲な地域を対象としており、地域の規模や地理的な要素、顧客の特性などを考慮しマーケティング活動を展開します。
例:大手チェーンが新店舗を出店する時に、その地域に合わせた商品企画や宣伝活動を行う
▼エリアマーケティングのより詳細はこちらをご覧ください
地域マーケティング
地域マーケティングは、自治体や地域が主体となり、その地域にヒト、モノ、カネを呼び込むマーケティング戦略です。
地域の特性や文化などを活かし、その土地ならではの魅力を外へ向けてPRするのが地域マーケティングなのです。
例:自治体や地域企業が、地元の特産物や伝統工芸品を消費者に向けてアピールする
地域マーケティングのメリット
地域マーケティングを行うと、地域経済が活性化したり観光振興ができたりなどの相乗効果も期待できます。以下で詳しく解説します。
地域経済の活性化
地域マーケティングのメリットには地域経済の活性化が挙げられます。
地元の特産品を使った商品開発や販売を行って売上が見込めれば、地域住民の士気も高まります。
また、地元企業と連携し、地域の新しい産業や雇用を創出することも地域経済の活性化において重要な役割を果たすといえるでしょう。
地域のコミュニティーの活性化
地域マーケティングでは、地域コミュニティーの活性化も期待できます。
もともとそこに住んでいる人や移住してくる人を指す「定住人口」や、観光客などの「交流人口」を増やすだけではなく、「関係人口」を増やすことも重要です。
関係人口とは、その地域にルーツを持ち、地域と何らかのつながりを持つ人です。
地域イベントに参画し盛り上げるなど、地域の担い手となる多様な人材のことを指します。
このように関係人口を創出し、地域を訪れる人の流れが生まれることで地域が活性化するメリットがあるのです。
観光振興ができる
自然や歴史、文化やグルメなど、観光資源をPRして観光客を呼び込むことで観光振興による経済効果も期待できます。
映画やドラマの舞台やロケ地になった場合、多くの観光客が訪れるかもしれません。また、イベント時にも、一時的に観光客が増えることもあるでしょう。
しかし、一過性のものではなく、継続して訪れるリピーターを増やすことが大切です。
近年の消費のトレンドのひとつに、その土地でしかできないことを「体験」するというものがあります。
特産品をただ買う、食べる、ではなく工場見学や生産者の声を聞く、実際に作ってみるなど、感動・共有できる体験とセットにすることで、その土地のファンやリピーターになってもらえます
このように、地域マーケテイングには観光振興ができるメリットもあるのです。
住民の満足度が上がる
地域に関わる人や訪れる人が増えたり、経済が活性化したりすると、地域住民が自身が住む土地に誇りを持ち、愛着を深められるという効果も期待できます。
住民の満足度が上がることで人口の流出を防ぎ、また、地域自体が注目されるようになると、外部からの移住者が増える可能性もあります。
このように、地域に人を呼び込むための良いサイクルができ始めるのです。
地域マーケティングの事例
地域マーケティングでは、その地域にしかできない施策を行うことが重要です。
行きたい!体験したい!と思わせるような仕組みづくりが、観光客を増やすためのポイントになるでしょう。
実際の地域マーケティングの事例をご紹介します。
長野県阿智村
観光業への新たな施策を模索中、環境省が実施した全国星空継続観察で「星の観察に適している場所」第1位に選出。
その強みを活かして「日本一の星空」を活かしたナイトツアーを企画しました。
星空を観測するだけではなく、星空ガイドやゆっくり座れるシートなど、家族連れやカップルなど、消費者の異なるニーズに対応できるプランを提供。
雨天・曇天でも楽しめるライティングやプロジェクション・マッピング、などの工夫を凝らした施策を行い、人口の25倍に相当する観光客の呼び込みに成功しました。
問題 | 阿智村の人口約6,500人温泉業として栄えたが、団体客の減少等により観光需要が鈍化 |
施策 | 夜間にゴンドラを運行し、星空ナイトツアーを提供 |
効果 | 年間16万人もの観光客を呼び込む(10~20代の若者が4割)村全体が「日本一の星の村」として自信と誇りを生み若者の地元定着に貢献村外とのパートナー連携を行い地域の雇用増や交流人口増を実現 |
特徴 | 地方創生大臣賞受賞地元の温泉宿泊施設と連携した活動で地方創生1年を通じて集客可能なサービスモデルを構築 |
福井県鯖江市
鯖江市は国内生産シェア約9割を占める眼鏡フレームの産地であり、繊維や漆器産業などの伝統工芸品が盛んです。
しかし、人口は減少し後継者不足に悩まされており、その課題を解決するため、国内最大規模の産業観光イベント「RENEW」を年に1度開催しています。
工房の見学やワークショップで作り手の思いや背景について理解を深め、その場で購入できるほか、就活イベントやローカルフード販売もあり、鯖江市を知り、移住を検討するきっかけ作りを行っています。
問題 | ひっ迫する市の財政により、将来的な余裕がない人口減少と高齢化社会問題伝統工芸品の後継者不足 |
施策 | 作り手たちとつながる体感型マーケットを開催 若者が親しみやすいロゴやサイトを作成しイメージを変えるPRを行う |
効果 | 時代に合わせたものづくり施策により、担い手として移り住む若者が増えたファクトリーショップが増加し、雇用の創出に成功 |
特徴 | 地域の内と外、両輪で好循環を生み出す仕組み若者にターゲットを絞った施策 |
香川県直島町
アートによる町おこしに成功したのが、瀬戸内海に浮かぶ直島。
注目すべきポイントは、施設を利用して行うアート展示だけではなく、民家の空き家を利用してアートを展示する方法です。
島全体が美術館のようになっている「家プロジェクト」により、開催期間の105日間で30万人の入場者数を記録しました。
直島町の地域マーケテイングの特徴は、アートが好きな消費者にターゲットを絞り、アートを楽しんでもらうためのコンセプトを貫いている点です。
問題 | 若年層の旅行離れにより観光客が減少民家の空き家が多くあった |
施策 | 島全体に現代アートを配置メディアには撮影制限を設け、島に来なければ見れないアートを展示した |
効果 | カフェオープンするなど外部からの流入が増え、空き家が無い状態になった直島を訪れた9割以上が、また来たいと回答若年層の観光客が増えた |
特徴 | 島を直接訪れなければ見れないアート体験に特化大都市にない非日常のアート体験ができるコンセプト策定(テレビを設置しない、飲食店や宿泊施設を増やさないなど) |
福島県
震災で大きな被害を受けた福島県。
震災後に観光客が激減しても、一定数の検索数があったことから、Googleやマーケティングの専門家と連携し、デジタルマーケティングを実施しました。
データを分析し、PRが効果的であるとされるターゲット国の選定、各国の嗜好に合わせたプロモーションを展開。
インバウンド需要を見越した質の高いコンテンツがSNSで拡散され、震災の影響で激減した観光客数は2017年に震災前の水準を突破、地域マーケティングを成功に収めました。
問題 | 震災や風評被害により激減した観光客を取り戻したい |
施策 | プロの専門家と連携し、デジタルマーケティングを実施 |
効果 | SNSで拡散され2週間で2,200万回再生を記録動画をスキップしない「視聴率」が、一部の国で70%(平均20~30%)震災の影響で激減した観光客数は、2017年に震災前の水準を突破 |
特徴 | ターゲット国を絞った施策を展開コアなターゲット層に向けてアプローチ 栃木県、茨城県と連携する広域周遊ルートを展開 |
地域マーケティング成功へのポイント
地域マーケティングの事例を紹介しましたが、どの事例にも共通するのが、その地域ならではの特性を活かした施策を行うことです。
地域マーケティング成功へのポイントを詳しく解説します。
地域ブランドの確立を意識した取り組み
地域マーケティングを成功させるには、まずは地域ブランドを確立させることが重要です。
すでにある地域の資源を棚卸しして把握し、他の地域にはない特色がないかと考えます。
また、キャラクターやロゴなどを作る場合は統一感を持たせると、認知度拡大に効果があります。
ご紹介した事例にある「眼鏡といえば鯖江市」のように、その地域と特産品が連想できるようになると理想的といえるでしょう
地元住民や地元企業との連携
地域マーケティングを成功させるには地元住民や企業との連携が必要不可欠です。
また一度の施策で成果が出ないからとすぐに諦めるのではなく、軌道を修正しながら成功への糸口を見つけるのも大切です。
地元の人々や企業の声を定期的に聞き計画し(Plan)、実際に行い(Do)、課題を洗い出したり評価をしたりし(Check)、解決策を提案する(Action)、という「PDCA」を回し続けることも地域マーケティング成功の秘訣といえるでしょう。
デジタルマーケティングの活用
今の時代に地域マーケティングを成功させたいなら、デジタルマーケティングの活用を視野にいれましょう。
デジタルマーケティングは、Webサイトやメール、SNSやアプリなど、さまざまなチャネルから得たデータを活用するマーケティング手法を指します。
精度の高い情報をリアルタイムで集められるという利点があり、集めたデータを分析し、ユーザーのニーズに合った施策に活かせるようになります。
例:Webサイトの場合には閲覧者数、流入経路、滞在時間などのデータを集め分析する
また、地図情報とさまざまなデータを一体化して活用できるGIS(地理情報システム、Geographic Information System)などのツールを使いこなすことも必要となるでしょう。
▼GISについてはこちらをご覧ください
外部のパートナーとの連携
上記のようなデジタルツールを新たに導入する場合、そもそも使い方が理解できない、何から始めればよいのかわからない場合もあるでしょう。
また、地域マーケティングの主体となる自治体がアナログベースの場合には、デジタルツールへの導入に理解を得られないこともあるかもしれません。
そのようなときには外部のパートナーの協力を得ることでスムーズに進むこともあります。
専門家のアドバイスにより、なぜデジタルマーケティングを行うのか、デジタルツールを利用するメリットやデメリットには何があるのかを詳しく知ることもできるでしょう。
地域マーケティングならオーダー!にお任せ
オーダー!では、地域の特性を最大限に活かせるような地域マーケティング支援を行っています。
最先端デジタルツールを用いた分析や、スマホアプリを活用した観光振興政策も行っています!
データを分析し地域マーケティングに活用
オーダー!では企業や自治体向けに、地理空間情報を可視化、分析するためのプラットフォームの構築、仕組みづくりの支援も行っています。
また、人流や過密状況分析、ヒトやモノの行動分析なども可能です。
特に、Pデータマップは地図情報とBIのレポーティングを両方兼ね備えているため、さまざまなツールを使い分ける負荷を抑えられるのが特長です。
▼Pデータマップについて詳しくはこちらをご覧ください
事例紹介
オーダー!では、地方自治体の地域情報化事業において多くの経験があり、例えば観光客誘致のための企画立案から、その事業に関するホームページの開設・運営、アプリの開発までトータルでサポートすることが可能です。
こちらでは実際に沖縄県北部地域にある、北部広域市町村圏事務組合様からご依頼いただき、やんばる観光周遊システムを構築した事例を紹介します。
【課題】 世界自然遺産に登録された沖縄本島北部地域には、沖縄を代表する観光スポットが多いにも関わらず、近隣の観光スポットなどへの誘導がうまくできずに、観光客に北部地域の魅力を体験してもらえなかった。 【地域マーケティング施策】 北部の観光スポットを知ってもらうための、スマホアプリとして「やんばるGOGO」をリリース。アプリの地図上で現在いる地点の近隣のおすすめ観光スポットを表示する他、訪問すると入手できるオリジナル電子スタンプの提供サービスも展開、地域内の観光スポットを次々と訪問したくなるような仕掛けを実施しました。 |
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まとめ
本記事では、地域マーケティングについて解説しました。
地域マーケティングで最も重要なポイントは、その地域でしか体験できないような地域特性を掘り出し発展させ、地域ブランドとして確立させることです
また、地域マーケティングを行う上で地域住民や地域企業との連携も必要不可欠になるでしょう。
自治体だけでは、策が生み出せない場合には、第三者目線から見た地域の魅力を発掘してもらうのも一つの手です。
次世代へ向けた明るい未来を描くためにも、ぜひ地域マーケティングに取り組んでみませんか?