自治体や企業、NPO、商店街などが独自に発行し、限られた地域内で使用できる通貨が「地域通貨」です。地元経済やコミュニティの活性化に効果があると言われ、キャッシュレス決済の普及などから近年再び注目を浴びています。
その一方で、持続的に運用するのが難しく、導入したものの失敗に終わってしまった事例も多くあります。
地域通貨を成功に導くには、その地域に合わせた施策が必要で、長期的に運用できる仕組み作りも大切です。
そこで今回は、地域通貨導入を検討する自治体の方に向けて成功例をご紹介します。
地域通貨の成功例にみる共通項や、地域通貨のよくある失敗例も解説しているので、ぜひ参考にしてください
本記事を読むことで地域通貨を成功へ導くためのヒントが得られるでしょう。
地域通貨の成功とは
そもそも地域通貨の成功とは何を指すのか、疑問に感じる方も多いのではないでしょうか?
地域通貨が成功したのかどうか、判断する指標について解説します。
地域通貨の成功を判断する指標
地域通貨の成功といっても、単純に一つの数値で計ることはできません。
主に、次の5つの指標が目安になります。
1.発行量
発行量とは、地域通貨の需要と供給のバランスを示す指標です。
適切な地域通貨の発行量を持続することで、地域通貨の価値を保つことができます。
2.流通量
地域通貨の流通量が増えると、経済が循環し地域の活性化に繋がります。
しかし流通量が増えすぎると、地域通貨の価値が低下する可能性があるため、適切な発行量を保つことが必要です。
3.利用者数や取引数
利用者数や取引数が増加すれば、導入したいと考える事業者が増え、利便性が向上する好循環が生まれます。
地域通貨が使える加盟店が増えていることも、地域通貨成功の指標の一つといえるでしょう。
4.運用継続期間
地域通貨を導入し、短期間でも成功を収めている自治体もありますが、長く運用しているかも目安の一つになります。
成功例の一つであるさるぼぼコインは、2017年に3ヶ月間の試用期間を経たのち、2023年4月現在まで安定的に運用しています
5.地域住民の参加度
地域住民の参加度、地域通貨への理解や満足度も成功を判断する指標の一つとなります。
住民の参加度や満足度を数値化することは難しいものの、地域住民や事業者の参加が活発なほど地域への好影響があると考えられます。
なお、地域通貨事務局より、住民へのアンケートなどの分析を行えば、参加度などを数値化することもできるでしょう。
地域通貨成功例7選
地域通貨の成功例には、最も有名な成功例の一つといわれるさるぼぼコインや、大学内で開発されたデジタル技術を駆使したByacco/白虎などがあります。
それぞれの自治体など発行元で地域に合わせた施策を行っているので、参考にしてください。
さるぼぼコイン|岐阜県高山市・飛騨市・白川村
さるぼぼコインは高山市の中心地において30〜40%のシェアを誇る、利用率の高い地域通貨です。
立ち上げ時から大手キャッシュレスサービスとの差別化を意識し、決済機能以外にも防災情報や、交通情報の通知機能を追加しています。
住民が利用しやすいアプリを作成し、高齢者にも使いやすいよう対面窓口も設けています。
開始時期 | 2017年~ |
利用できる店舗数(加盟店数) | 約1,900店舗 |
地域通貨形式 | 専用アプリによるデジタル式 |
特徴 | ・飛騨信用組合の預金口座との連携やコンビニATMで簡単チャージが可能・県民税、国民健康保険、水道料金などの支払いも可能・ユーザー同士でコインの送金が可能 |
せたがやPay|東京都世田谷区
世田谷区商店街振興組合連合会が運営するせたがやPayは、開始から1年で2,000店舗を突破し、流通総額が19億円超にまで成長。
街の人のちょっとした交流や、街の魅力を再発見してもらう目的で導入しており、積極的に加盟店のPRも行っています。
せたがやPayは専用端末不要のため、店舗側の導入コストがかからない点が大きな特長です。
開始時期 | 2021年~ |
利用できる店舗数(加盟店数) | 約4,000店舗 |
地域通貨形式 | 専用アプリによるデジタル式 |
特徴 | ・区民以外の利用も可能・加盟店応援キャンペーンを随時開催 |
ぶんじ|東京都国分寺市
デジタル地域通貨が主流となりつつあるなか、ぶんじは紙のカードタイプを導入しています。
名刺大のぶんじカード裏面にメッセージを書ける欄があり、感謝の気持ちを書き込むなど想いを伝えることができるのがユニークな点です。
ぶんじは現金で入手することもできますが、農家の収穫作業の手伝いや清掃作業などの活動でも入手でき、地域住民の交流に役立っています。
開始時期 | 2012年~ |
利用できる店舗数(加盟店数) | 約30店舗 |
地域通貨形式 | 紙のカード型 |
特徴 | ・メッセージカード一体型・地域活動やボランティアでも利用可能・ぶんじや、ものを取り次ぐ取次所設置 |
negi(ネギー)|埼玉県深谷市
negi(ネギー)は、利便性を考慮し、専用アプリとプラスチック製の専用カードの2種類を導入。
住民が行政のコスト削減に協力した分を謝礼・運営費用に充てるなど、ペイフォワードの精神を引き出すような施策が特徴です。
自分の行いが街のためになるという意義付けをし、地域が抱える課題を住民みんなで解決できるような仕組みを作り上げています。
開始時期 | 2019年~ |
利用できる店舗数(加盟店数) | 約800店舗 |
地域通貨形式 | 専用アプリによるデジタル式と専用カード |
特徴 | ・専用アプリとカードの2種類を導入・ポイントバックキャンペーンなどを開催・エコ活動など地域貢献によりネギーがもらえる |
アクアコイン|千葉県木更津市
2022年9月に利用額(累計)10億円を達成したアクアコイン。
君津信用組合・木更津市・木更津商工会議所が連携して普及に取り組んでおり、デジタル地域通貨の中でも数少ない二次流通機能を搭載しているのが特徴です。
加盟店が受け取ったアクアコインをそのまま他の加盟店で使用することができるため、例えば飲食店が顧客から受け取ったアクアコインで食材の仕入れをする、といった使い方ができます。
また、利用可能地域は木更津市内のみ、期間は1年間に設定し、市外への資金流出の防止や消費量を増加させるための施策を行っています。
開始時期 | 2018年 |
利用できる店舗数(加盟店数) | 約790店舗 |
地域通貨形式 | 専用アプリによるデジタル式 |
特徴 | ・提携銀行と紐づければチャージ不要で利用可能・二次流通機能搭載・利用期間や地域を限定した施策 |
アトム通貨|東京都早稲田・高田馬場
早稲田・高田馬場発祥のアトム通貨は、地域通貨としては例を見ない全国展開をしている点が特徴で、「川口支部」「札幌支部」などの支部があります。
アトム通貨の貨幣単位は「馬力」。デジタルではなく紙で、10、50、100馬力(一部支部では200馬力)があり、透かし入りのこだわりあるデザインと環境に配慮した印刷方法が用いられているのも注目ポイントです。
現金での購入ができず、「地域」「環境」「国際」「教育」に該当する行動をすれば入手することができます。
具体的には、飲食店でのマイ箸の持参や青果店での地産地消の商品購入、エコ車検・エコ整備の利用などでもらえ、1馬力=1円として使うことができます。
開始時期 | 2004年~ |
利用できる店舗数(加盟店数) | 約160店舗 |
地域通貨形式 | 紙幣型 |
特徴 | ・5つの支部を設置した全国展開・多種多様なプロジェクトを展開・現金購入不可で該当する行動により入手できる |
Byacco/白虎|福島県会津若松市
Byacco/白虎は、会津大学のために開発された、日本発のデジタル地域通貨です。
学生の約3分の1が学食の決済などに利用しており、割り勘や送金機能など、学生には便利な機能が搭載されています。
会津大学内で開発されたブロックチェーン技術を導入し、分散型台帳に安全に記録・保管される運用方法をとっているのも特徴のひとつです。
開始時期 | 2020年~ |
利用できる店舗数(加盟店数) | 店舗数は要問い合わせ |
地域通貨形式 | 専用アプリよるデジタル式 |
特徴 | ・日本初のデジタル地域通貨・会津大学のための地域決済システム・ブロックチェーン技術により安心・安全な決済が可能 |
地域通貨のよくある失敗例
地域通貨の7つの成功事例を紹介しました。
以上の成功例を踏まえて、多くの地域通貨が失敗する原因とは何なのかを見ていきましょう。
流通量が増えない
地域通貨が失敗する大きな原因として、流通量が増えないことが挙げられます。
- 利用者が地域通貨を使うメリットがない
- 地域通貨を使える場所がない
- 事業者の導入コストがかかる、手続きが面倒
利用者と加盟店の参加が増えなければ、必然的に流通量も増えないため、多くの人が利用したくなるような仕組みを構築する必要があります。
運用コストの負担が大きい
地域通貨の導入には、多大な初期費用がかかります。
また、導入したあとでも、サイトメンテナンスや新年度の地域通貨の印刷など、継続的に行わなければいけない業務も多くあります。
システム管理費用や人的リソースなどの運用コストがかさむと、継続が難しくなり失敗に終わる…。そのようなケースが多々あるのです。
地域通貨の成功例からわかる共通項とは?
地域通貨の成功例を見ると、多くの場合で事前にしっかりとした経営計画を立て、持続的な運用ができる仕組みを構築しているという共通項があることがわかります。以下詳しく解説します。
経営計画をしっかりと立てる
地域通貨をうまく運用している自治体や発行元を見てみると、まず導入の目的を明確化し、地域通貨を持続可能なビジネスにするための経営計画を立てています。
地域住民や事業者の参加度が高い地域ほど地域通貨は成功しやすいため、双方の意見交換を行い、導入の目的を明確にすることも大切です。
また、地域通貨導入にあたり初期費用はかかりますが、数年かけて回収できる見通しを立てることも必要といえるでしょう。
地域通貨を単なる決済手段にしない
地域通貨を利用したくなるような仕掛けを作ることも必要です。
大手のクレジットカードやキャッシュレス決済など支払方法が乱立するなか、わざわざ地域通貨を使ってもらうには、どのように差別化させるかを考えなくてはなりません。
割引やポイント還元だけではなく、地域に役立つという動機付けを持たせたり、コミュニティとのつながる機会が得られたりすると良いでしょう。
また、地域通貨の利活用向上に向けて地域通貨やポイントが使えるECサイトを整備しておくことも、非常に有効な方法の一つです。
実際にサイトを立ち上げる前に、日々のサイト運営から商品の物流フローの整備までしっかり考えておきましょう。
持続的に運用できる体制を整える
地域通貨の導入自体も乗り越えるハードルが多く大変ですが、多くの自治体ではその後の運営を続けることに課題を抱えています。
特に地域通貨の運用業務は多岐に渡るため、人材やリソースの継続的な確保が困難になることも。特に専門知識を必要とする地域通貨のサイトやシステム構築では、対応できる人材が見つからないケースもあります。
そのような時は、自前で対応できない業務の一部、あるいは地域通貨の事務局業務すべてをアウトソーシングする方法があります。
システムの構築・運用から、紙の地域通貨の印刷・発送、効果の分析やレポート作成まで、幅広い対応ができるため、効率的な運営を続けることができるのです。
地域通貨の事務局代行はオーダー!にお任せ
地域通貨の導入にはさまざまな作業が発生し、利用者、事業者、金融機関…など関わる人々が多いという特徴があります。
オーダー!では「自治体による地域通貨の事務局」など事務業務代行サービスを提供。企画からサイト作成、問い合わせ代行など、多数の実績があります。
- ECサイトの構築・運用
- 地域通貨のデザイン制作
- PR用チラシの作成から印刷、発送まで
- 代行業務のレポート作成
- 問い合わせ代行(外部・内部)
- 内職代行(封入・ラベル貼り・検品など)
その他の業務についても幅広い対応が可能です。ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
本記事では地域通貨の成功例について紹介しました。
地域通貨の成功例には、有名なさるぼぼコインをはじめ、全国で使えるアトム通貨など、さまざまな種類があります。
どの成功例にも共通していえることは、しっかりとした経営計画があり、持続的に運用できる仕組みを整えているという点でした
「地域通貨を導入して地域を活性化させたい」と考えている自治体はぜひ参考にしてください。
そもそもの地域通貨について詳しく知りたい方は以下の記事も合わせて読んでみてください。