近年、全世界で拡大し続けているEC市場ですが、とくに中国におけるEC市場の勢いは群を抜いています。日本においても中国越境ECへ参入する企業は増えており、実際に成功した事例も多くあります。

本記事では、中国越境EC市場の現状から、中国に向けた越境EC事業に参入するための方法、注意点などを解説し、事例もご紹介します。

今後も拡大が期待される中国越境EC事業。これから参入をお考えの方、始めてみたが課題を抱えているという方は、これから解説する重要なポイントを押さえて万全な体制を整えていきましょう。

中国における越境EC市場の特徴

中国越境EC市場の特徴

まずは中国の越境EC市場の特徴と、その背景を理解しておきましょう。

巨大な中国における越境EC市場

巨大な中国越境EC市場
出所:経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」

世界最大規模を誇るといわれる中国のEC市場。経済産業省が2022年8月に発表した「電子商取引に関する市場調査」の結果によると、中国消費者による日本事業者からの越境EC購入額は2兆1,382億円(前年比9.7%増)と、前年に続き増加傾向にあります。

近年の中国は圧倒的なEC市場規模を持ち、さらに今後も伸びると予想されます。

参考:経済産業省「令和3年度 電子商取引に関する市場調査報告書」

中国のECモールは3社が牽引

中国国内にはECプラットフォームが多くありますが、EC全体の小売額は、2019年時点で以下の上位3社が9割近くのシェアを占めています。

天猫(Tmall)

中国で約半数というトップシェアを誇るB2C型ECプラットフォームです。アリババ傘下で審査が厳しいため出店は企業のみ、個人は不可となっています。運営コストとしては、保証金、ソフトウェアサービス費用、販売金額に応じた手数料が発生します。

京東(JD.com)

別の企業から仕入れた商品を個人消費者に販売するB2B2Cを、主なビジネスモデルとしているプラットフォームです。2019年時点では26.5%と天猫に次ぐシェアを誇り、PC周辺機器、家電の販売に力を入れています。

拼多多(pinduoduo.com)

共同購入ができるECプラットフォームで、2019年時点の小売額シェアは12.8%となっています。ユーザーが安く購入するためにWechatなどの個人SNSで情報を拡散するというのが特徴で、これまでは主に三・四級の地方都市に住む中低所得層ユーザーをターゲットとしていましたが、補助金政策や正規品保証の付与によって一級都市、二級都市のユーザーが増加しています。

参考:日本貿易振興機構(ジェトロ)「中国EC市場と活用方法」

インフルエンサーマーケティングが盛ん

中国では、インフルエンサーがECの購買行動に強い影響力を持っています。その中でも次のようなインフルエンサーによる影響は、中国ECビジネスにおいてとくに顕著となっています。

KOL(Key Opinion Leader)

KOLとはKey Opinion Leader(キー・オピニオン・リーダー)の略で、もともとは医師などの専門家を指す言葉でした。しかし、SNSが勢いを増すにつれて、特定の業界や専門領域に強いインフルエンサーを指すようになりました。KOLが作成するコンテンツは、より専門的で高クオリティであるためフォロワー数も多く、WeiboやWeChatなどの中国版SNSを中心に大きな影響力を持っています。

網紅(ワンホン)

網紅とは、中国語でインターネット上の有名人や人気者を意味し、主に動画での情報発信をしているインフルエンサーのことです。とくにTikTokなどを活用した若年層へのアプローチに効果を発揮します。

決済手段の主流はモバイル決済

中国は、スマートフォンによるキャッシュレス決済の保有率が高く、いまや人々の生活に欠かせない存在となっています。中国におけるモバイル決済の市場は2014年頃から大きく拡大し、アリババの「支付宝(アリペイ)」、テンセントの「微信支付(WeChatPay)」を筆頭にEC市場拡大にも大きな影響を与えてきました。

対中国のビジネスにおいてモバイル決済対応は必須といえるでしょう。

OMO戦略で購買行動が変化

OMOとはOnline Merges with Offline(オンライン・オフラインの融合)を意味し、中国はその先進国といわれています。ECストアと実店舗の区別をせず、顧客が使いやすいほうを柔軟に選べるよう促す、このOMOというマーケティングが中国では成功しているのです。

スマホの普及やキャッシュレス化の浸透で、実店舗とECの垣根がなくなりつつあるため、今後もこの動きはますます加速すると考えられます。

アランくん

中国はインターネット利用やスマホによるキャッシュレス決済が盛んという背景もあって、世界的にもかなり急激な勢いでEC市場が発展しているんですね。世界中の企業が、中国の越境EC市場への参入を検討するわけですね

中国に向けた越境ECに参入する方法

中国越境ECに参入する方法

中国の越境ECに参入する際には、具体的に以下のような方法があります。

中国の越境ECモールへ出店する

条件を満たす法人であれば、もっとも手軽に出品できるのがこの方法です。先にも紹介した、天猫や京東などの越境ECモールに出店すれば、中国に法人を作らずとも日本法人として本格的に中国の越境EC市場に参入できます。決済も日本の銀行が利用でき、販売許可も日本のものを活用することが可能です。ただし、消費者の安全と安心のために出店基準は厳しく設定されています。

例えば、天猫国際(Tmall Global)では、出店のために保証金や手数料が必要となりますが、他のECサイトと比べてやや高い傾向があり、出店ハードルも少し高くなっています。

出店申請時には書類審査があり、一般的には登記簿謄本と法定代表者の身分証明書、法人口座証明書または口座取引明細書、代理店証明書、商標登録証などが必要となります。また、美容や医療に関する機器、サプリメントなどを出品する場合、関連許認可の取得や書類の提示が要請される可能性があります。

中国の越境ECモールへ出店

出店費用は、代表的な2社については上表のようになっていますが、金額や比率は商品種類によって変動することがあります。

出所:日本貿易振興機構(ジェトロ)資料「中国越境ECに出店する際の留意点」

中国法人設立によるECサイト展開

中国で法人を設立して、そこでECサイトを運営するという方法もあります。ただし、外資企業が中国でWebサイトを立ち上げるには「ICP(Internet Content Provider)ライセンス」が必要となり、これを取得することはやや難しいため、中国の既存ECサイトを利用するほうが参入しやすいといえます。

日本国内でECサイトを構築して中国向けに販売する

日本国内において、新規で越境ECサイトを立ち上げる、もしくは既存の日本語サイトに中国語や英語を追加するといった方法もあります。しかし、国外においてサイトを認知してもらうためのSEO対策など、集客への工夫が必要不可欠です。

とくにネックとなるのが「グレートファイアウォール」という、中国全土を対象としたインターネット検閲(ブロック)システムです。中国独自のこの仕組みは世界最高峰のセキュリティとも呼ばれ、中国国外で制作したサイトが現地の人々の目に留まること自体が難しく、ハードルは高いといえるでしょう。

さらに、中国の法律の知識が必要となるため、自社でのサイト構築を検討するなら専門の業者に相談するとよいかもしれません。

日本以外の海外でECサイトを構築して中国向けに販売する

すでに他国でECサイトを持っている場合などは、海外のECサイトから中国内の消費者に向けて販売するという方法もあります。ただし、海外から中国の個人向けに商品を配送するため納期が長くなることや物流にも課題が発生しがちなこと、⾏郵税という税金がかかる点などに注意が必要です。

さらに日本国内でECサイトを構築する場合と同様に、グレートファイアウォールにより安定したアクセスが得られないことも懸念されます。

卸売りで参入する

現地企業や、越境ECをしている企業に業務を委託し、卸業者として商品を販売するという方法もあります。ただし、業務委託までの業者への交渉力などが必要となります。

中国の個人オークションサイトに出品する

個人事業主や、まず小規模で試したい場合は、CtoCをメインとしたプラットフォーム「淘宝網(タオバオ)」を利用する方法もあります。中国の銀行口座や支付宝(アリペイ)の口座開設、サイト内での中国語対応などが必要となりますが、これらがクリアできるのであれば試してみる価値はあるかもしれません。

WeChatミニプログラムを利用する

中国最大のSNSプラットフォーム「WeChat」にある「WeChatミニプログラム」という機能を利用して越境ECを開始することも可能です。決済機能も備わっているためコストを抑えられ手順も簡単ですが、多くの利用者がいるため知名度がないと集客が難しいというデメリットもあります。

アランくん

中国の越境ECに参入するためには、法人でも個人でもいろんな方法が選べるんですね。それぞれのメリットやデメリットを踏まえつつ、自社に合った出店方法を見極めて、じっくり検討したほうがいいです

中国に向けた越境ECを始める時に知っておきたい注意点

中国越境EC 注意点

いずれの方法で中国越境EC市場に参入するにしても、以下のポイントは押さえておきましょう。

言葉の壁

まずは、中国語での対応が必要となることです。サイト構築はもちろん、商品説明や商談、購入者からの問い合わせなどは中国語での対応が求められます。

中国のECではチャットによる問い合わせが主流なので、翻訳に時間がかかったり、ミスコミュニケーションが発生したりすることも想定しておきましょう。

中国越境EC関連の法や規制

2019年1月施行された中華人民共和国電子商取引法(通称:中国電子商務法)には、税関における登記義務や消費者権益の保護義務が定められており、営業許可の取得や納税義務が生じる他、消費者に対する安全確保義務や知的財産権を侵害した場合などは制裁が課せられます

さらに、必ず中国語での商品説明をつけることや、商品がポジティブリストに含まれているか(販売可能かどうか)を事前に確認する必要もあります。

中国の消費者向けの販売戦略が必要

中国のEC市場は世界最大といわれるほど大規模ですが、中国国内だけでも多種多様な文化があり「中国人はこう」だとひとくくりにはできません。地域それぞれに文化も違うので、商品とターゲットの選定、事前のリサーチをしっかりとおこなうことが大切です。

また、国内向けよりも物流コストがかさむので、価格設定も重要なポイントです。

越境ECは物流が課題

中国のECモールでは独身の日といった販促イベントやセールなどで出荷が通常の数十倍になる時期もあります。そのため、梱包や配送などの物流は大きな課題です。

中国越境EC市場における販売や物流には「保税区モデル」と「直送モデル」という2種類の方法があります。どちらにするかによって税率や配送にかかる日数、コストも変わってくるため、慎重に検討しましょう。

直送モデル

直送モデルは、日本から中国の消費者へEMSなどで直接商品を発送する方法です。安定した出荷量が見込めない段階やスタートアップ企業などには、行郵税方式の直送モデルがおすすめです。行郵税とは個人が海外で買った商品を郵送する時にかかる税金で、購入者が負担します。

デメリットとしては、購入者それぞれに宛てた直接配送となるため、配送コストが保税区モデルに比べて高くなることなどが挙げられます。また、海外発送なので出荷から納品までに時間がかかり、国内に比べ荷扱いがかなり乱雑になることも多いため梱包にもノウハウが必要となります。

こうしたトラブルを防ぐひとつの方法として、経験豊富な業者へのアウトソースがおすすめです。

保税区モデル

保税区モデルは、中国政府が指定した保税区内にある保税倉庫に商品を保管しておき、受注したら通関・検疫をおこない配送する方法です。

越境ECモールなど大手のプラットフォームが推奨する方法で、在庫リスクを抱えることや保管料がかかるといったデメリットもあるものの、受注から発送までの日数が少ないことや、直送モデルに比べ税率が低いなどのメリットがあります。

安定した量の出荷があり、成長段階にある企業におすすめです。

アランくん

どんな事業をスタートするにも注意すべきポイントはありますが、とくに中国をターゲットとした越境ECへの参入には、事前に把握しておくべきポイントが多くあるのですね

中国越境EC事例の成功事例・失敗事例

中国越境EC事例 成功事例 失敗事例

具体的に中国越境ECに参入した企業の例を見ていきましょう。

中国越境EC事例の成功事例

まずは成功事例からご紹介します。

ヤーマン

ヤーマン株式会社(東京都江東区)では、天猫(Tmall)での2022年の独身の日(11月11日)販促イベントにおいて、5年連続1日1億元の販売実績を達成多機能美顔器などの売上によって「美容&化粧カテゴリ」総合ランキングに美容機器ブランドとして唯一ランクインしました。

カルビー

カルビー株式会社(東京都千代田区)は2016年頃から中国越境ECに参入、北海道土産として国内でも人気が高い「じゃがポックル」や「フルグラ」などのヒットを経て、2020年の決算では中国のEコマースの売上だけで100億円を突破しました。

中国越境EC事例の失敗事例

成功した企業もあれば、失敗する企業もまたあります。たとえ日本国内で成功しても、中国がターゲットとなると商品の選定、マーケティングの工夫など、異なる戦略が必要です。具体的には、以下のような失敗事例があります。

  • 日本で売れた商品をそのまま持ち込んだが売れなかった
  • 日本で成功したマーケティング手法を持ち込んで失敗した
  • 法規制や商習慣を理解できていなかったために、手続きに時間がかかったり、トラブルに見舞われたりした
  • 中国で一般的なチャットのやりとりに苦戦し、問い合わせに対応しきれなかった

こうした失敗を防ぐには、以下のような対策が有効だと考えられます。

  • 事前リサーチを徹底し、現地ニーズに合った商品を選定する
  • 現地マーケティングに精通した人材を確保する
  • 現地の法規制といった専門知識を持つ人材を確保し、商習慣を事前に把握しておく
  • 越境EC専門の部署や問い合わせ対応専門のスタッフを配置する

越境ECはオーダー!におまかせ

越境ECはオーダー!

オーダー!のEC物流代行では、越境ECを展開する企業のコンシェルジュとして幅広く業務をサポートしています。

契約期間や時間に合わせて、必要な業務を選択してご利用いただける定額運用メニューの他、EC+物流サービスをまとめてサポートする物流おまかせサービスとのセット依頼も可能です。

業務の例
  • ECサイトの商品 在庫管理・発送
  • 個人事業主向け 在庫管理・発送
  • カスタマイズサービス
  • 海外向け発送
  • 検品代行
  • 物流システム
  • 導入ECサイトの構築・運用
  • ※ご依頼内容に合わせてプランのカスタマイズが可能です

IT業と物流業の双方の専門性を活かし、ECサイトの構築からリニューアル、運用保守、商品管理、発送業務まで、越境ECや物流業務を熟知しマルチスキルを備えたスペシャリストが幅広く対応いたします。ぜひご相談下さい。

まとめ

今後もさらなる発展が見込まれる中国の越境EC市場。

中国の越境ECモールへ出店する、自社で中国法人を設立する、日本国内のECサイトで中国向けに販売するなど、参入方法はさまざまですが、いずれにせよ言語対応や法規制への対応、販売戦略や物流など課題が多くあります。

自社だけでの対応が難しいと感じた場合は、ぜひアウトソーシングもご検討下さい。

越境ECに必要な知識とスキルを備えたメンバーのサポートを受けることで、円滑に中国に向けた販売をスタートできます。

お客様に合わせた幅広い対応が可能な「オーダー!」のご利用をぜひご検討下さい。

越境EC全般については以下の記事を参考にしてください。