オムニチャネルは、現代の複雑化した顧客に対応するためのマーケティングの仕組みです。しかし、その概念を聞いただけではピンと来ない方もいるでしょう。
この記事では、オムニチャネル戦略の導入事例を多数紹介。読むことで導入イメージをつかめます。オムニチャネルの成功のコツも合わせて解説していますので、ぜひお役立てください!
オムニチャネルとは
まずは、オムニチャネルとは何かを確認しましょう。経済産業省の「電子商取引に関する市場調査」では、オムニチャネルは以下のように定義されています。
“消費者が商品の購入に至る過程において、実店舗、PC サイト、モバイルサイト(スマートフォン)、ソーシャルメディア、従来型メディア(新聞・雑誌・TV)、カタログ、DM 等、あらゆる販売チャネル・情報流通チャネルを経由する時代となっている。オムニチャネルとは、消費者がこれらの複数のチャネルを縦横どのように経由してもスムーズに情報を入手でき購買へと至ることができるための、販売事業者によるチャネル横断型の戦略やその概念、および実現のための仕組みを指す。”
引用:経済産業省「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)
現代の消費者は、デジタルからアナログまでさまざまなメディア(チャネル)に囲まれて生活を送っています。これらを連携させ、消費者とさまざまな面で接点を持ち、商品やサービスの購入につなげようという考え方がオムニチャネルです。
オムニチャネルについて、詳しく知りたい方はこちら
オムニチャネルが注目される理由
次に、今オムニチャネルが注目されている理由を解説します。オムニチャネルは前掲の経済産業省の資料でも「市場のトレンド」として掲載されているほどです。その背景には何があるのでしょうか。
デジタルデバイスの普及
一つ目の理由は、ここ数年でデジタルデバイスが広い年代に普及したことです。
総務省の「令和3年度 情報通信白書」によると2020年時点で各デバイスの普及率はスマートフォンが80%以上、パソコンが約70%、タブレットが約40%となっています。この調査から、商品やサービスをオンラインで認知し、購入する経路が増加していることが分かります。
さらに、総務省統計局の「家計消費状況調査年報 令和3年」によると、インターネットを利用した1世帯当たり1ヵ月間の支出(二人以上の世帯)について、年平均額が2019年は14,332円でしたが、2021年は18,727円と約30%上昇しています。
顧客(ユーザー)はたくさんの情報をもとに比較検討し、商品を購入します。そのため、どの経路からであっても顧客の購入意欲が高まったタイミングで販売できる戦略が求められるようになりました。
出典:
総務省「令和3年版 情報通信白書 デジタル活用の現状」
総務省統計局「家計消費状況調査年報 令和3年」
さまざまな顧客に対応できるから
二つ目の理由は、顧客(ユーザー)との接点を増やせることです。近年はライフスタイルや価値観が多様化したため、オムニチャネルを持つことで多様な購買スタイルの顧客を取り込めるようになったのです。
オムニチャネルが注目される背景には、顧客の変化や小売業・EC事業者をとりまく環境の変化など、さまざまな要因があるのですね。
オムニチャネルの事例(アパレル・ベビー用品)
ここからは、オムニチャネルの事例を具体的に見ていきましょう。まずはアパレル・ベビー用品事業からです。
ユニクロ
低価格・高品質のカジュアルブランド「ユニクロ」は、商品企画から製造・流通・販売までを手掛ける、日本を代表する小売製造業です。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・企業の黎明期である1990年代からデジタル化に着手。全国企業からグローバル企業になるにつれて、システムを改善
・AIによるチャットで商品の詳細やコーディネートを相談できる「UNIQLO IQ」を導入
・RFID(無線自動識別)を活用し、セルフレジを導入
・アプリやLINEアカウント、ECサイトを通じてクーポンを定期的に配布
【施策の結果】
2020年の時点でユニクロ公式アプリのダウンロード数は3,000万以上。また、2021年の調査では、競合する6つのファストファッションブランドのアプリの中で、最も利用率が高く、1年以内の購入率が最も高い(オンライン・オフライン問わず)という結果を出しています。(スパコロ調べ)
また、同調査ではユニクロ公式アプリ利用者の半年以内の実店舗利用率は79.0%で、非利用者(30.3%)の2倍以上という数字も出ており、アプリが実店舗の頻繁な利用につながっていることが分かります。
出典:
JBpress「ユニクロの急成長を支えた『3つの変革』」
株式会社スパコロ「ファストファッションアプリについての調査を公開しました。利用率1位のファッションアプリは?」
ABC-MART
ABC-MARTは、靴やカジュアルブランドの衣料品を販売する小売業大手企業です。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・積極的なIT投資を行っており、基幹システムのクラウド化を達成。また、フューチャーアーキテクト社とIT全般における戦略的パートナーシップを締結している
・EC在庫を活用し、店舗で欠品している商品を顧客に直接届けるサービスを実施
・一部の店舗では、インターネット通販で購入した商品の店頭受け取りや試着が可能
・公式アプリにECと実店舗で利用できる、ポイントシステムや店舗検索機能などを実装
【施策の結果】
日本経済新聞社の2020年度の調査によると、靴専門店として国内1位の売上高を達成。2022年2月期(連結)の売上高は2,439億4,600万円で前期比から10%以上増加するなど、コロナ禍でアパレルメーカーの苦戦が伝えられる中、順調に売り上げを伸ばしています。
出典:
ABC-MART「ABC-MARTの強み」「2022年2月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」
日本テレコン「靴専門店業界 市場規模・動向や企業情報 」
アカチャンホンポ
アカチャンホンポは、マタニティ・ベビー・子ども用品を販売するチェーン店です。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・店舗にタブレットを設置し、商品検索から決済、配送依頼までを一元化
・公式アプリではアカチャンホンポのポイント以外にセブンマイルもためられる。限定クーポンの配布やベビーカーなどの補償サービスも実施
【施策の結果】
2020年2月期までの5年間は売上高950億〜1,000億円を達成していました。その後、コロナ禍に伴う外出抑制の影響で21年2月期は売上高が750億円ほどまで落ち込むも、22年2月期には800億円ほどまで回復しています。
出典:
アカチャンホンポ「公式スマホアプリ」
株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア「赤ちゃん本舗が力を入れる『月齢マーケティング』とは何か」
オムニチャネルの事例(化粧品)
続いて、化粧品の事例を紹介します。
資生堂
資生堂は化粧品の企画・製造・販売を行う、化粧品の国内シェア1位の企業です。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・2020年にデジタルやEC関連の4つの部署からなるデジタルオフィスを新設
・ARを活用したバーチャルメイク、肌測定アプリ「肌パシャ」、オンラインカウンセリングやデジタル接客などを推進
【施策の結果】
2021年度の業績について、公式サイトで次の通り説明されています。
“営業利益は、売上増に伴う差益増、プロダクトミックスの改善に加え、市場の変化に合わせた適切なコストマネジメントを実施したことなどにより、前年比177.9%増の416億円。”
引用:資生堂 「業績・推移データ」
これらの中でオムニチャネルはプロダクトミックスに深く関わっていると推測されます。
出典:ネットショップ担当者フォーラム「EC化率35%をめざす資生堂のDX&EC戦略と『ワタシプラス』改善事例 」
ファンケル
ファンケルは化粧品や食品、サプリメントなどの企画・製造・販売を行う企業です。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・2018年より店舗情報とWebを連動、クーポンを共通化。ECサイトだけでなく店舗も含めた購入履歴を過去2年間までさかのぼれる機能を実装するなどした
・2021年度からは通販・店舗アプリの統合、スマホアプリによるAIを使った肌診断、カウンセリングなどの予約サービスを通信販売での買いもの時にも実施
【施策の結果】
店販・通販の両チャネルを使う顧客は、単一チャネルのみの顧客に比べて、継続率は1.5倍、年間購入金額は3倍に達しています。
出典:
通販通信ECMO「ECと店舗を連動…ファンケルが『次世代オムニチャネル戦略』開始 」
ファンケルグループ「中期経営計画『前進2023』」
オムニチャネルの事例(銀行・生命保険)
次は銀行・生命保険の事例です。
りそな銀行
りそな銀行は、りそなホールディングス傘下の都市銀行です。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・2015年よりオムニチャネル戦略を打ち出し、一部の決済をWebで完結できるように。また、グループ銀行のサービスも店舗で利用可能にした
・個人向けのサービスとして、残高や入出金明細の確認、振込などに対応する「りそなグループアプリ」、来店不要で口座を開設できるアプリ、りそなデビットカードの利用履歴照会や各種設定、QRコード決済ができる「りそなウォレットアプリ」などを展開
【施策の結果】
2022年3月期の業績はフィー収益(信託報酬+役務取引等利益)が発足以来の最高益となりました。また貸出金残高(グループ銀行合算)は前期比1.7%、預金残高(グループ銀行合算)は前期比3.7%の増加を達成しています。
出典:
りそなホールディングス「りそなの オムニチャネル戦略」
りそなホールディングス「業績について」
オリックス生命保険
オリックス生命保険は、オリックスグループ傘下の生命保険会社です。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・オムニチャネルの営業本部を設置。コンタクトセンター(お客様窓口)、コンサーブアドバイザー(お客様の相談などに対応する人材)などと連携してオムニチャネル戦略を推進した
・これまでに持っていた保険の販売チャネル(代理店、金融機関、通販)に加えて、直販チャネルを新設。4チャネルを統合し、チャネル間での情報も統合した
【施策の結果】
直販チャネルを新設したことで、年換算保険料が3年間で11倍に増加。コンサーブアドバイザーの生産性(一人で月に40万円以上を達成)が86%を記録しました。同業他社の生産性が約40〜55%といわれている中、オムニチャネル戦略が効率性を向上させているようです。
出典:
オリックス生命保険株式会社「オムニチャネル戦略とは」
FinTech Jornal「オリックス生命の『オムニチャネル戦略』、なぜ保険料収入を11倍に増やせたのか」
オムニチャネルの事例(小売)
最後に、小売事業の事例を紹介します。
イオン
イオンは、日本最大規模の流通グループです。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・実店舗とECサイトのポイントを一元化
・公式アプリとレシピサイトを連携し、レシピを見ながら必要な食材を検索、購入できるようにした
・実店舗で貸し出すスマートフォンで商品のバーコードをスキャンし、専用レジで会計できる「レジゴー」の導入
【施策の結果】
2022年2月期連結業績によると、ECやネットスーパーなどのデジタル売上高は1,300億円。2020年2月期の700億円と比べると、2年で2倍近く増加しています。
中でもネットスーパーの売上高については、2020年2月期からの年平均成長率は35.1%増。ネットスーパーの売上高は750億円以上という結果を残しました。
出典:
流通ニュース「イオンネットスーパー/「クラシル」と連携、レシピから買物可能に」
Impress Watch「イオン、レジに並ばない新買い物スタイル「レジゴー」。スマホで自分でレジ打ち」
ネットショップ担当者フォーラム「イオンのデジタル売上は1300億円、ネットスーパー売上は750億円以上」
ビックカメラ
ビックカメラは、1978年創業の家電量販チェーンです。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・2020年に電子棚札(デジタルプライスカード)を導入。リアルタイムで価格改定でき、ECサイトの5つ星評価も表示される
・NFC(近距離無線通信)の導入により、公式アプリを電子棚札にかざすと商品情報、在庫状況も閲覧できるようにした
【施策の結果】
コロナ禍で実店舗の収入が減っている中、2021年8月期の連結EC売上高が前期比8.9%増の1,564億円と、順調に業績を伸ばしています。
出典:
株式会社CREiST「店舗の業務効率化と新たな購買体験による次世代型の売り場環境へ」
日本ネット経済新聞「ビックカメラグループ、EC売上は8.9%増の1564億円 EC化率は18.8%に拡大」
マツモトキヨシ
マツモトキヨシは、日本最大規模のドラッグストアチェーンです。
【オムニチャネルの具体的な施策】
・店頭在庫・価格をWeb上で確認でき、店頭商品の取り置き・取り寄せが可能になった
・店舗とECサイトを統合。全商品の最新情報が閲覧できるようにした
・店舗とネット会員のポイントが統合され、全チャネルを横断して購入履歴やポイント獲得履歴の閲覧、ポイントの利用が可能になった
【施策の結果】
2021年3月期の決算資料によると、デジタル会員は前期末から140%以上増加。また、デジタル販促(公式アプリ、LINEなど)による売上高は前年から135%増加しています。
出典:
BizXaaS「事例紹介 マツモトキヨシホールディングスのオムニチャネル戦略を実現するための基盤を「BizXaaS®オムニチャネル」をベースに構築。」
株式会社マツモトキヨシホールディングス「2021年3月期 決算説明会 説明会資料」
オムニチャネル戦略のイメージがつかめましたか?どの企業も戦略が着実に業績に反映されているようですね。
オムニチャネルの成功のコツ
ここでは、オムニチャネルを成功に導くためのコツを押さえておきましょう。
中長期的に計画する
オムニチャネルを実行するには多くの予算と時間が必要です。短期間での実施は困難であるため、中長期的に計画・実施しましょう。
自社を分析し、ロードマップを策定したうえで施策を行ってください。
社内全体の意識統一
オムニチャネルはさまざまなチャネルを連携させ、全体の売上を伸ばす施策です。各チャネルや部門で個別対策するのではなく、社内全体の意識を統一し、連携を図りましょう。
具体的には、社員への説明会や研修などを行い、概念や施策の浸透に努めます。オムニチャネルは大規模な施策であるため、推進部門の設立もまれではありません。
また、部門(チャネル)ごとの評価制度を見直すことも重要です。従来の縦割り組織ではオムニチャネル化が難しいため、組織を再編する場合もあります。
システムの統合・データの連携
オムニチャネルは、各チャネルで得られた顧客(ユーザー)のあらゆるデータを分析し、施策を行います。そのため、全てのチャネルを一元管理するシステムの導入も必要になるでしょう。
システムの一元化によって顧客情報や在庫状況を把握し、現状の課題を発見。対策を立てられます。
また、次のような施策も可能でしょう。
・顧客の購入パターンやニーズに合わせ、適したチャネルを通じてマーケティングを実施
・実店舗でもオンラインでもポイントが使えるようにする
システムの統合・データの連携はより顧客に響く施策を生みます。結果、顧客満足度が向上していくのです。
在庫管理の重要性
オムニチャネル戦略では、在庫管理の一元化が特に重要です。ここに、店舗運営者を中心に行ったアンケート調査があります。
それによると、「オムニチャネルにとっての、在庫管理の重要度を教えてください。(10段階/数字が大きいほど重要)」の質問に対して51%が「10」、22%が「9」、10%が「8」と回答。全体の8割以上が在庫管理を重要視していることが分かります。
出典:ロジザード株式会社「調査レポート:『オムニチャネル』に関するアンケート調査」
また、「在庫管理の課題があるとしたら、どのようなことですか?」に対しては、「物流コスト・人件費(41%)」や「誤出荷などの物流品質(24%)」と回答しています。
しかし、これらの課題はEC業務と物流をセットで外注することで解決できるのです。その理由は以下の通りです。
- ECサイトの受注と在庫の一括管理を依頼することで、在庫管理のミスを削減できる
- フルフィルメントの工程を最適化でき、コストを抑えられる
オムニチャネルはマーケティングの側面から施策が語られることが多いものの、実はバックヤードシステムの強化が非常に重要です。この点を強化することで、施策に運用が追いついていきます。
オムニチャネル戦略を行うためには、綿密な計画が必要なようですね。また、専門知識やノウハウが必要なこともあります。自社のスキルやノウハウに課題がある場合は、外注を検討しましょう
在庫管理+物流はオーダー!にお任せ
オーダー!は企業の業務をサポート・代行する事業を手掛けています。
これまでに大企業から中小企業、自治体から官公庁まで幅広い業種や企業規模のクライアントを支援しており、豊富なノウハウが蓄積されています。ECビジネスを展開する際に必要な業務を一気通貫でサポートします。
「まるっとお任せ!定額運用メニュー」なら、必要な業務を契約期間、時間に合わせて対象業務から選択してご利用いただけます。※対応業務はヒアリングのうえ決定します。
メニューの詳細は以下の通りです。
【スタンダードプラン】
料金:12万円/月(税抜)
契約期間:3ヵ月毎
実働時間:30時間/月
- 商品管理(マスター管理、在庫管理、仕入管理)
- サイト管理(在庫登録、在数更新、商品登録、更新)
- 特集ページやランディングページ作成
- ニュースリリースなどの追加・修正・変更
- レポート作成など
他にもご相談に応じますので、お気軽にご相談下さい。
また、「物流お任せサービス」とのセット依頼で、フルフィルメントの工程の最適化も可能です。
PDCAを回す
オムニチャネルの施策を実施したうえで、出てくる課題の改善を継続的に行います。実行した施策を評価し、新しい施策に生かしていくサイクルを続け、常に顧客(ユーザー)に喜ばれる施策を提供できるようにしましょう。
オムニチャネルの事例 まとめ
今回は、企業のオムニチャネル戦略事例を紹介しました。自社で行う際のイメージがつかめたのではないでしょうか。
先に述べた通り、オムニチャネル戦略を実行するときは在庫管理と物流をセットで考え、実行することが重要です。専門的なノウハウを必要とすることが多いため、プロの力を借りるのもよいアイデアです。
外注の際は、ぜひオーダー!へのご依頼をご検討下さい。